侍女、ドーテ

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 「えっと、えっと……」と何か誤魔化すようなクローディアの言葉に現実に引き戻る。  クローディア、この記憶は君が秘密にしていることと関係あるのか? 「えっと、神々の思し召しにお任せするの……」  人の社会がその人を罪人だと言っても、死後の魂の行方を決めるのは冥界の主に委ねられている。  シャンピーと同じような綺麗な場所に行ける罪人もいるだろう。  もちろん、その道が開かれない者もいる。そういう魂は、冥界のさらに下、奈落の底へと落とされる。  そこがどんな場所なのか、死者ですらきっと知らないだろう。  クローディアは、人が人を裁くことをそれほど重要視していなかった。  最終的に裁くのが誰で、どうなるのかを見て知っている。  それは神殿の祭司が説く演説よりずっと身近な事実として。 「ルブラードを呼ぶ」  結局、ルブラードとの内々の判断でドーテには神殿に行ってもらうことになった。  毒殺未遂を公表し正式に罪状を言い渡すとなればオートリー伯爵が一度鳴りを潜め、計画を暴けないまま問題を先延ばしにしてしまうかもしれない。  最悪証拠がないと無罪を主張し余計な反対勢力が増えても困る。  お咎めなしはあり得ないし、城内で幽閉などすればどこからか情報が洩れ伯爵の耳に入るだろう。連絡の取れなくなった娘を不審に思うこともあるはず。  彼女のクローディアに対する態度にエルキュールが怒っているのは確かで、その逆鱗に触れ勝手に神殿に送られてしまったことにするのが落としどころではないかと言うことになった。  神殿に入るとは、俗世から離れ巫女として生涯を捧げるという事。  かつてクローディアが偽装のためにしたのは神殿に入るのではなく、あくまで巫女見習いと言う修行の一部をすることで、これは貴族の令嬢の間でも行われることがある。  オートリーが取り戻しに行くかもしれないが、俗世に戻る気のない娘を見れば無理に連れて行くことは出来ないだろう。  強行すれば神殿を敵に回しかねない。 「私以外にも父の手の者が城内にいるかもしれません。私も全てを知っている訳ではないのです。私が言うのもおかしいですが、どうかお気を付けください。神殿では、お二人の幸せをお祈りさせていただきます」  数日後、手配を整えられたドーテは、最後にそう告げると夜明け前の闇に紛れて西端にある神殿へと送られた。  そしてその夜。
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