街道の襲撃

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 かくれている。  五人もだ。  たぜいにぶぜいだな。 「何か言ったか!?」 「エルク、あっちの糸杉! 五人なの!」 「クソっ」  みろ、うしろも三人だ。  かわいそうに、かわいそうに……この娘も……  エルキュールが手綱を絞り馬を反転させようとするのに、クローディアが叫んだ。 「後ろは三人なの!」  その言葉と同時に、前方から五人が姿を現わした。  全員馬に乗ったその姿は漏れなく武装している。恐らく誰かしらの私兵だろう。   「俺はエーノルメの王子エルキュール。分かっていての襲撃のようだな」 「左様……護衛も付けないとはどれだけ己の腕を過信しているのですかな」 「奇襲をするほど愚かな者がいたとはな。そんなに俺が邪魔か」 「戦うだけの王子であれば良かったものを。下手に国の平和など望むからこうなるのだ。せっかく陛下が無気力となってくれたのだ。あとは我々に委ね、安心して死者の軍勢(・・・・・)にやられるが良い」 「死者の軍勢?」  エルキュールの胸に縋るクローディアが、一体なんのことかと聞き返す。  問われたリーダー格らしい男は嫌な笑みを浮かべ答えた。 「フィルディの王女はやはり殿下を亡き者にしようと企んでいたようですな。その上陛下の命まで狙おうなどと。残念ながら殿下をお救いするには間に合いませんでしたが、我々も一矢報いましょうぞ……」 「ディア、しっかり捕まっていろ。少し我慢してくれ!」 「はい!」  エルキュールが剣を抜くのと同時に相手が襲いかかって来た。  その辺の兵士であれば五人などエルキュールの敵ではない。  だが今はクローディアを守らなければならない。    先陣を切ったのは中でも一番若い男だった。  経験が浅いのか、エルキュールからすれば無駄の多い動き。  彼は自分の隙を作らないために最小限の動きで若造の剣を弾くと、間髪入れず追撃を与えた。  彼は数歩馬を進めた後、音をたてて地面に崩れた。  それで敵が怯むはずもなく、続けざまに攻撃を受ける。  広い場所では不利だ。なんとか木立の中に入りたい。  まだだ、まだいる。  弓をもってかくれてるぞ。  木立に入ればえじきになる。 「エルク、弓兵が木立に隠れてるの。 街道の左右、二人よ」 「チッ……」  後ろには隠れている三人、逃げようとすればどこからか奇襲をしてくるだろう。  木立に逃げ込もうとすれば弓が狙っている。  前方には四人。最初の一人以外はそれなりに経験値が高そうなのは、こうしている間に剣を打ち合わせることで分かった。  強行突破はかなり難しいだろう。  彼が必死にクローディアを守る間、彼女はポケットに必ず忍ばせているセージの葉を一枚取り出した。  ジュレに習った方法で火を点けると、そっと下に落とす。  霊的な空間が広がり、乱戦の中彼女はさっきから敵の位置を教えている旅人の霊にこっそり話かけた。
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