街道の襲撃

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 木立に入った瞬間、事態に気づいた後方待機の三人が近づいて来る気配があった。  すぐ後ろには四人の兵が迫る。  最初に追いついた一人に一太刀浴びせると、彼はどこかにいる死体の兵に叫んだ。 「当たらなくてもいい、弓を!」  ヒュっと風を切る音がして、追走する兵士の前を矢が一本通り過ぎた。  驚いた兵士が馬の手綱を引くと、大きくいなないて急停止した。  矢はそのまま近くの幹に突き刺さり、羽がビィンと震えていた。 「なんだ! 俺たちを狙ってどうする!」 「下手クソか! 王子をねら――ぐあっ!」  狙ったのかたまたまなのか、下手と罵る兵士の剣を持つ手に、深々と矢が刺さった。   「味方を射るヤツがいるか!」 「逃げたぞ! 追え!」  その隙をエルキュールが見逃すはずもなく、後方の三人が追い付く前に木立の奥へとすり抜けた。  去り際にクローディアは旅人の霊に礼を述べると、その魂を解放した。    足場の悪い道だが巧みに馬を操り、あっという間に追手から離れていく。  それほど厚くない木立を抜けると、そのまま全力疾走に移った。  街道からは外れたがそのまま進めば町の方へと出る。  そこには町の警護を担う騎士団が常駐しており、騎士団は王子派。  城に戻るより近く、帰るにしてもそこで警護を増やしてからの方がいいだろう。  腕にきつくクローディアを抱いたまま、ひたすら馬を飛ばす。  やがて丘へと辿り着き、目的地だったはずの花畑が少し向こうに見えた。    後方を振り返っても追ってくる気配はない。  恐らくあの街道での奇襲に成功しなかった場合作戦を中止する手はずになっていたのだろう。  彼は馬の速度を落とすと、花畑の方へ馬を進めた。  彼女の楽しみにしていたお菓子はもうとっくに乱戦中に無くなっている。  残念だがそれはまた後日実現させてもらおう。  胸にしがみついたままのクローディアと、無言で花畑までやって来た。  馬を止めると、ようやく彼女は顔を上げた。
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