街道の襲撃

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「ここ……お花畑?」 「来る予定だった場所だ。もう菓子は手元にないがな。すまない、危険な目に合わせた」 「ううん。二人とも怪我もなくてよかったの」  彼は馬から降りると、クローディアの手を取った。  おっかなびっくり降りる彼女は、地面に下りると安心したのか座り込んでしまった。 「怖かったの……馬が」 「奇襲ではなく馬か。君らしい」  彼はそう言うと、ずっと手にしたままだった剣を一振りした。  そして手首を返して数回綺麗な弧を描くと、すっと鞘に収まった。  剣を持った時に、同じ癖をする騎士を彼女は知っていた。  静かに立ち上がると、エルキュールと見つめ合う。  彼もまた気づいていた。  あの霊的な空間が導いた記憶。かつてクローディアと自分には特別な繋がりがあったことを。 「クローディア、ずっと会いたかった」 「私も。ずっとずっと会いたくて、でももう無理で、私あなたのこと想い出の小箱にきちんと仕舞ったの。“美しい想い出”の棚に、ちゃんと置いたんだよ」 「時折不思議な記憶に胸を絞めつけられることがあった。昏睡から目覚めた時、誰かの名を叫びたくて出来なかった。婚礼の儀でヴェールを取った時、君しかいないと思った。叫びたかった名はクローディアだったと」 「あの神殿にもセージが焚かれていたの。同じように霊的な空間が出来ていて、ちょっとだけ私たち繋がったのかもしれない」  エルキュールが彼女を抱こうと手を伸ばす。  だがクローディアは一歩身を引いてしまった。  切なさと喜びが混ざった表情をしていたエルキュールが、少しショックを受けたような顔をして止まった。 「聞いてエルク」 「ディア?」 「エルク、私が付けた名前は覚えてる?」 「額の傷が稲妻のようだから、稲妻(エクレール)と」  クローディアは頷く。  エルキュールは彼女に手を伸ばしたまま固まったように話を聞いている。 「私ね、最初はあなたとエクレールが完全に一致しなかったの。エクレールを還したあとに、抱いている想いが恋だったって気づいたわ。でももうエーノルメの王子に嫁ぐことは決まっていて、だからエクレールのことは綺麗な想い出としてしまっておきたかったの」  エルキュールはただ静かに話を聞く。  クローディアが一度言葉を区切ると、ちょうど風が吹き抜けて小さな花々が波のように揺れていた。  さわさわと小さな音が止むと彼女は続ける。
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