特製ソース

　会社の近くにあるステーキハウス。小さな店だが常連がたくさんいて、いつも店内は混雑している。
　かくいう俺もここの常連だが、皆がこぞってこの店にやって来るのは、ひとえに、店長が常連客にだけ振舞ってくれる特製ソースのためだ。
　正直、店で提供される肉の味なんてどうでもいいし、なんなら、ビーフステーキがチキンソテーだったとしても構わない。とにかく、特製ソースさえかかっていればいいんだ。
　肉の種類が何であろうと、あれをかければ、その肉は人肉そのものの味になる。不思議なことに食感まで同じになったと感じられる。
　周りには山ほど人間がいるけれど、人間の世界で正体を隠して暮らしている以上、簡単にそこらの人間を食う訳にはいかないからな。
　だからお仲間はみんな、あの店の特製ソースに助けられてるよ。
　ま、人間の方も、あのソースのおかげで俺達がおとなしくなっている訳だから、誰もが、ステーキハウスの店長様様という気持ちだな。

特製ソース…完