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よく見ると、黒い物体はバスケットボールのような質感ではなく、ガスや靄のように実態が掴みにくい物にも見えた。 怪しい者ではないと言うが、どう見ても怪しい「物」にしか見えない。 スス、ピー 「怪しい者でないなら…何なんだ?」 なるべくこの何なのかわからない物体とは一メートルは距離を置いておきたい、と優太は少し後退りした。 「優太さんには何に見えます?」 ? 相変わらずお城の執事のような柔らかい声に、そして緊張感のない質問だった。 優太もつられてなんとなく警戒感をといた。 「…? 丸くて黒い…ガスの塊…?」 「そんなふうに見えるのですね」 黒い何かは小刻みに震えて笑い声を立てた。 笑い方も上品に聞こえた。 「私の姿は見る人によって違って見えるようなのです」 「…どういう意味だ?」 「私は本来、姿形はなく目には見えないのです」 「…? 幽霊…?」 「まあ、そんな感じですね」 ぼんやりと浮かぶ黒いガスの塊を見て、二日ほど前にインターネット・ニュースで読んだブラックホールを思い出した。 その記事には画像はなかったが、優太の想像したブラックホールは、目の前にある黒いガス体のようだった。 むろん、ブラックホールはこんなに小さくはないだろうが…。 スス、ピー、スス、ピー 「その音…『スス、ピー』って音は…?」 黒いガスは少しふわっと上に飛んだ 「それは私の息遣いだと思うのですが、これまた人によって聞こえ方が様々なのです。本当は何の音もしていないはずです。 おそらくは、私が昨日、優太さんのお宅の近所の神社に寄った時に、木々から様子見していた野鳥さんたちの出した音でしょうね」 やはりこの怪しい物体は昨日も神社へ来ていたらしい。 「野鳥さんたちには『何もしないから心配ないですよ』と伝えておきました。その時に、羽を少し羽ばたかせ小さく鳴いて返事をくれましたから、その音なのかな?  思念は残ったりくっついたりするものなのですよ。たとえ野鳥さんたちでも」 しねん…? 奇妙な音が野鳥たちの出した音で、何故、目前の黒物体から聞こえて来るのかはまるでわからなかった。 それよりも大事なことがある、と優太は思った。 「…で、なんで僕の家族を知ってるのだ?」 「その前に、優太さん、あなたはご自身の状況をおわかりですか?」 「僕の状況…?」 そうだ…。 この神社はどこにあって、そして自分は何故ここにいるのか…? 優太は全く知らなかった。 「……」 黒い塊は、少し申し訳なさそうな声で告げた。 「優太さん、あなたはお昼を食べるために会社を出た時に熱中症で倒れたのですよ」 「え…?」 「あなたは今、病院に入院中で生死の境目にいます」
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