勇往邁進に恋をする

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 「実は私も好きなの……大山くんのこと」  人気のない昇降口の隅。  桃香と向かい合った状態で、足も手も、声までもが震えていたけれど、私は真っすぐに伝えた。   「うん……知ってた」    桃香は少し驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに表情を曇らせて俯くと、弱々しい声でそう答えた。  怒っているでもなく、悲しんでいるでもなく、優しくて穏やかな声色。  「え……?」  感情的になって話が出来なくなるかもしれないと思っていたので、そんな桃香の返答に、私はただただ戸惑った。   そんな私の様子を桃香は困ったように眉をハの字にして、弱々しく微笑んだ。  「言ってくれるの待ってた……ちゃんと言って欲しかったから……」  そう言った桃香の目が涙で潤んだ。    あぁ……桃香も、苦しんでいたんだ……    「桃香、ゴメン……私、言うのがこわくて……桃香との関係が悪くなるのがこわくて……」    目頭が熱くなって、私の目にも涙が滲んだ。  「ううん。言ってくれて嬉しい。関係なんて変わらないよ! 友達でしょう? でも……私も、協力してくれるかだなんて、探り入れてゴメン……」  桃香はそう言って、私の両手をとってブンブンと上下に振る。  「これからは正々堂々いこうね! 私、あざとくいくけど、恨みっこなしだからね」  桃香は前歯を見せてニッコリ笑った。その瞬間、一筋涙が目尻から溢れて頬を伝った。    「うん。私、変わろうと思ってるから……もっと真っ直ぐ、素直になるから」     私がモジモジそう言うと、桃香は「良いんじゃない?」と笑った。そして、「私、学祭の日に大山くんにツーショット頼もう〜」と、挑戦的に私を見た。  「えー⁉︎ じゃあ、わ、私も……」  「茜、頼めるの?」  「た、頼めるよ」  「ふぅ〜ん」  「なにさー!」  たまたま通りがかった下級性の女子たちが、私たちを横目にコソコソと通過した。  私たちは腕で互いに小突き合いながら、キャッキャと笑った。    大山くんへの気持ちを伝えられたこと、桃香と分かり合えたことが嬉しくて、私は笑って、また泣いた。  
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