勇往邁進に恋をする

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 模擬店の駄菓子屋はなかなか繁盛して、あっという間に交代時間が近づいてきた。  交代するメンバーの姿と一緒に、大山くんがパタパタと団扇(うちわ)をあおぎながら「もうかりまっか〜?」と、冷やかしに来た。  私はその大山くんが手にしている団扇を見て、ドクンと心臓が高鳴った。  大山くんが手にしている団扇は、書道部の企画で私がデザインした団扇だったのだ。  "唯我独尊"と大きく書いた裏に、小さく"俺が一番"とふざけて書いたものだ。  大山くんがあの日、書きたいと言っていたから、需要あるかな? と、ネタで書いたのだけれど……  まさか大山くんの手元に行くなんて……  それに、それを持っているということは、書道室に行ってくれたということだ。  ただそれだけのことだけれど、嬉しすぎて小刻みに体を弾ませてしまう。  「烏野! 烏野の作品見てきた。アレ、すげ〜良かった! なんか、烏野の気合いを感じた気がする」  大山くんは、私の顔を見るなり嬉しそうに話しかけてきた。手に持っている団扇で私にパタパタと風を送ってくれる。  「この団扇の字も、あの字も、俺の書きたかった字! ムズイのに書いてくれたんだな……」  私はうんと頷いて「格言にしようと思って」と答えた。  大山くんはアハハと声を立てて笑って「いいと思うよ。かっこいいもんな!」と親指を立ててイイネをくれた。  私はドキドキと暴れる心臓の辺りにギュッと拳を握りしめた。  目的に向かって、勇敢に突き進む……  勇往邁進!  「ねぇ、大山くん。またさ……書道室、遊びに来てよ。また一緒に好きな文字、書こう?……ふ、二人でさ……」  言葉に詰まりながらも、思い切って誘ってみる。そして、「ダメかな?」と、真っ直ぐに大山くんの目を見つめた。  慣れないことをして急に恥ずかしくなる。顔がみるみる熱くなるのを感じた。  大山くんは、少し戸惑ったようにはにかんで笑うと、団扇を自分の顔に向けてパタパタと扇ぎながら、一瞬視線を反らせて宙を眺めた。  そしてすぐに、  「うん、今度はジャージか、黒い服着て行くな!」  と、満面の笑みを見せてくれた。  その笑顔を見て、私もまた自然に笑顔になった。
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