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「ステンドグラス……人足りないの?」
私が尋ねると、大山くんは教室内に展示されている作品を興味深そうに眺めながら答えた。
「そうなんだよ……担当の奴らさ、バイトだとか塾だとか言ってさ、まだ一週間あるから平気だろって」
いかにも不服ですといった様子で口を尖らせている大山くんを見て、私は思わず笑ってしまった。
桃香に協力するとは言っても、やっぱり自分の気持ちを偽ることはできず、大山くんの仕草や表情に私の心臓は高鳴ってしまう。
「わかった、ここ片付けたら教室に行くね」
私は平静を装って、片付けを始める。
「烏野は模擬店なのに悪いな……」
そう言った大山くんは、整った歯を見せてニッと笑って、ちっとも悪いなっていう顔をしていない。
先に行っているものだと思ったのに、大山くんは「助かる!」と言って、片付けをする私を待っていてくれている。
二人きりのこの状況。本当はすごく嬉しいことなのに、余計な心配が頭をよぎり、不安で胸が苦しくなる。
こんな教室から離れたところで二人きりでいる所を誰かに見られでもしたら……
桃香に知られたら……
そんな私の心中を知る由もない大山くんは、「この墨汁の匂いとか、懐かしいよな~……」と、硯を持っている私の方に近づいてきた。
私はぐんと縮まった距離にドギマギしながら、自分の汗の臭いは大丈夫かと心配になる。
硯に残った墨汁をボトルの差し口から吸い上げると、大山くんはそれにもまた「すっげ」と、感嘆の声を出す。
「普通だよ」
「いや、慣れてるな~と思って」
「……まぁ、書道部ですし」
「ですよね~」
そんな会話をしながら、私が古新聞で硯に残った墨を拭き取ろうとすると、大山くんは「あ、ねぇ、ちょっとだけ書いちゃダメ?」と、悪戯に笑った。
「え……今?」
「うん、ダメ?」
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