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「ステンドグラスはいいの?」
私が尋ねると、大山くんは好奇心を抑えられない子供みたいな顔で「うん、まだ一週間あるし! ちょっと一枚書くくらいの時間は大丈夫っしょ」と、無邪気に笑う。
自由だな!
私は心の中で盛大にツッコミを入れる。
さっきまで、用事で帰った人の不平を言っていたくせに、急な手のひら返しに私も思わず声を上げて笑ってしまった。
「白シャツで大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫!」
ケタケタ笑いながら、棒状の文鎮を両手に持って「紙これ使っていい?」と、大山くんは準備を始める。
「うん」と返事をして、私は硯に墨汁を入れてあげた。
今日くらいいいよね。
こんなこと、きっと今日が最初で最後だもん。
「なんて書く?」
私が尋ねると、大山くんは視線を天井に向けた。候補の文字が天井に書かれているかのように、視線を動かしてアレコレ考えているようだ。
「何がいいかな……"唯我独尊"とか"勇往邁進"とかカッコ良くね?」
「うん、かっこいいけど書ける?」
「ううん、漢字わかんない」
「だよね……しかも難しいよ」
「じゃあ"一期一会"かな」
大山くんはやっと視線を天井から戻し、私の反応を窺った。
真っすぐに見つめられて、私は思わず、あからさまに視線を逸らしてしまった。顔が熱くなるのを感じる。
「い、いいと思う……」
私がそう答えると、大山くんは「じゃあ、そうする」と言って筆を手に取った。
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