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"唯我独尊"とか"勇往邁進"を書きたいと言うだけあって、大山くんの書は独創的で自由だった。型にとらわれず、ダイナミックで、彼らしいなと思う。
「ダメだ。字も歪んでるし、バランス悪い」
大山くんは、全ての字を書き終えて脱力した。
感想を求めて、大山くんが私を見上げる。
「勢いがあって、いい感じだよ。自由で、勇往邁進、大山参上! って感じ」
「ははは! それって……誉め言葉?」
「もちろん! 迷いなく最初からこんな風にのびのび書ける人ってあまりいないよ」
「そっか、サンキュ」
大山くんは少し照れたように、頬を掻いた。
「烏野の字はさ……繊細だけど、力強さもあって、芯がある感じ。ずっとやってるんだから当たり前かも知れないけど、整ってて綺麗だ。字って、やっぱり書く人を表すのかね」
大山くんは、急に真面目な顔で、私の書を褒めてくれた。
だけどその言葉は、私の胸に突き刺さった。
「そんなこと……ないよ」
私なんか、ナヨナヨしていて芯なんてない。本音を隠して周りに合わせるような臆病な女だ。
桃香に嫌われるのがコワイ。
グループから外されるのがコワイ。
――『本当は私も大山くんが好き。だから協力は出来ない』
あの日、言えなかった本音。
本当は言いたかった本音。
桃香は私の気持ちを知っているんじゃないか。
知っていてわざと、試すようにああ言ったんじゃないか。
『協力してくれる?』って聞かれたとき、『邪魔しないでね』って、言われた気がした。
だから桃香のこと、嫌な奴って思った。私の気持ち気づいているくせにって。
醜く歪んだ黒い感情に支配された。
でも、本当は……
そんなこと言われてもいないのに、勝手にそんな被害妄想をしてしまった自分が嫌なんだ。
本音が言えない臆病な自分が情けなくて、腹が立つ。
素直になれない自分が嫌い。
だから、字くらいは……美しく清らかでありたい。
正義も悪も、勝ちも負けもない、己と向き合う書道は私の心の基地なのだ。
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