勇往邁進に恋をする

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 「墨汁は落ちないんだよ……歯磨き粉で取れることもあるけど、下手するとかえってのびて汚く見えちゃうかも」  「あー……母ちゃんに𠮟られるやつだな」  大山くんは、言葉に反してへっちゃらといった様子で「ま、そんなに染みも大きくないし、大丈夫っしょ」と、ケラケラ笑った。  そして続けざまに「烏野さ、なんか悩んでるなら話くらい聞くから、いつでも言えよ」とサラリと言った。  あぁ、もう、本当にこの人は……    こういうところだ。私が大山くんに惹かれてしまうのは。  ちゃんと芯があるのは大山くんの方。  大山くんの優しさに、胸が締め付けられる。    やっぱり、諦めたくない。  好きなんだもん。  そして、自分のことを好きになれる自分になりたい……変わりたい。  「ごめん、やっぱり私もう少し書いていくね! 大山くんは教室戻った方がいいよ」  そう言って、私は大山くんから硯と墨汁のボトルを引き取った。    自然に笑えていたと思う。  心の靄が少し晴れた気がした。
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