20人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「墨汁は落ちないんだよ……歯磨き粉で取れることもあるけど、下手するとかえってのびて汚く見えちゃうかも」
「あー……母ちゃんに𠮟られるやつだな」
大山くんは、言葉に反してへっちゃらといった様子で「ま、そんなに染みも大きくないし、大丈夫っしょ」と、ケラケラ笑った。
そして続けざまに「烏野さ、なんか悩んでるなら話くらい聞くから、いつでも言えよ」とサラリと言った。
あぁ、もう、本当にこの人は……
こういうところだ。私が大山くんに惹かれてしまうのは。
ちゃんと芯があるのは大山くんの方。
大山くんの優しさに、胸が締め付けられる。
やっぱり、諦めたくない。
好きなんだもん。
そして、自分のことを好きになれる自分になりたい……変わりたい。
「ごめん、やっぱり私もう少し書いていくね! 大山くんは教室戻った方がいいよ」
そう言って、私は大山くんから硯と墨汁のボトルを引き取った。
自然に笑えていたと思う。
心の靄が少し晴れた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!