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「烏野はイラストも上手いんだな~」
いつもの調子の大山くんなのだが、心なしか以前よりも距離が近い気がしてドキリとする。
教室の隅で振付練習をしていた桃香も、大山くんが作業をやめていることに気が付いて、練習をやめて私の元へとやってきた。そして「なになに? あ、本当だ。茜、うま~い」と私たちの会話に乱入してくる。
桃香は笑っているが、私はソワソワ落ち着かない。
また、私の心に醜く歪んだ黒い靄がたまる。
ダメ……嫌だ。
私は桃香から目を逸らした。
そして、何気なく向けた視線の先に、見覚えのある黒い染みを二つ見つけた。
あ……。
それは大山くんのシャツにできた墨汁の染み。
やっぱり落ちなかったんだなと、チラリと大山くんの顔を伺うと、大山くんはニッと笑って私たちは視線で会話をした。
"あの時の"
"うん、気づいた"
なんだか二人だけの秘密みたいで嬉しくなった。
心の黒い靄は消えていく。
そして私は、その黒い染みと、大山くんの笑顔に勇気をもらう。
なりたい自分になるって、決めたんだ。
逃げずに、立ち向かうって決めたじゃないか!
「桃香、ちょっと付き合って」
私は桃香の手を取り、廊下に出た。
「え、茜? 何、どうしたの?」
「ちょっと、話したいことがあって……」
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