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山の麓にある駐車場にレンタカーを止めると、僕は雑木林が生い茂る道を登って、人形供養を行っている、その寺を目指した。
僕の髪の毛が異常な速さで伸び始めてからニ日目のことだ。
樹々に覆われた道は昼間だというのに、薄暗く気味が悪い。僕は、なだらかな傾斜がある道を急ぎ足で登っていく。
じんわりと汗が滲んだ顔に、肩先まで伸びた黒い髪の毛が纏わりついた。僕は指先で顔に張り着いた髪の毛を引き剥がすと、前方にある雑木林の奥を見つめた。
丁度この辺りだっただろうか。僕はひと月程前にバイト先の仲間達と肝試しに来た夜のことを思い出す。
「やばい。これまじなやつやわ」
そう言って、怯え始めた中津川君の言葉で、肝試しを中断して引き返した場所。黒い髪の毛が蠢いていたという場所。
霊感があった中津川君は、蠢く黒い髪の毛を見てしまったことから、呪いを受けた。それから髪の毛が伸び始めて、ついには髪の毛に吸いつくされてしまった。
アパートの部屋に残された大量の黒い髪の毛と、彼の手帳を僕が発見した。その時に、どうやら僕は彼が受けた呪いを引き継いでしまった。
手帳には、中津川君の身に起こったことと、彼が最後に行こうとしていた場所が記されていた。
僕は今、一縷の望みを掛けて、彼が最後に目指した人形寺に向かっているところだ。
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