黒い髪の人形

2/17

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 三十分程山道を行くと、道の脇に苔むした石段が現れた。石段は半ばが落ち葉や枯れ枝に埋もれてしまい、人の手が余り入っていない様子だった。僕は時折、枯れ枝を踏み折っては、パキリと音を立てながら石段を登った。  石段を登り終わると、およそ二十メートル程先に、少し大きめの一軒家位の大きさの寺が現れた。寺までは石畳の道が続いており、その両脇にはどれだけの樹齢を重ねたのか分からない程の大木が並んでいた。  その大木達が作り出す木影のおかげで、夏場であるにも関わらず、その場は、冷んやりとした空気に包まれていた。僕は石畳の上を歩きながら、その寺の本堂と思しき建物に近付いた。  遠目に見る分には、古びた小さな山寺の一つに過ぎない。しかし、近付くに連れて、その異様が伝わってきた。  本堂の縁側に当たる所に何かがビッシリと並べられている。  それらは、古びた市松人形達だった。  長年の風雨に晒されてきた為だろうか、本来色鮮やかであるはずの身に纏った着物は、すっかりと色褪せてしまい、元の布地の白が剥き出しになっていた。  それにも関わらず、髪の毛だけは、黒々と昔のような艶やかさを残しており、それは、あたかも、髪の毛だけが生きているような、何とも言えない不気味な印象を与えていた。  
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加