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墨村さんはお茶を入れると直ぐに戻って来た。そして、元の位置に座ると、お盆に乗せられていた二つの湯呑みの内の一つを僕の前に置いた。
「まあ、飲みなさい」
僕は勧められるまま湯呑みを手に取り、お茶を一口口に含んだ。のんびりお茶など飲んでいる気分ではなかったが、温かいお茶は僕の急いていた気持ちを、幾分落ち着かせてくれた。墨村さんも一口お茶を飲んでから話し始めた。
「結論から言うと、私が君を助けることは出来ない」
墨村さんの言葉に心臓がトクンと一つ大きく脈打つ。
駄目なのか……
余りのショックに声も出なかった。身動き一つ出来なかった。
僕も中津川君のように、髪の毛に吸い尽くされて死ぬしかないのか。そう思うと底知れない恐怖が身体の奥底から湧き上がってきた。
湯呑みを持つ手が恐怖で震えた。僕は腕の震えを何とか抑えながら、湯呑みを床の上に戻した。
「私は長年、ここの住職をしているが、人の身で出来ることなど、そうありはせんのだよ」
そう言うと、墨村さんは住職として、この寺で体験してきたことを訥々と語ってくれた。
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