黒い髪の人形

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 その日から、僕はこの建物に泊まらせて貰うことになった。  この建物は僧坊と言って、昔は寺で修行している僧侶達が寝泊まりする場所だったそうだ。小さな寺だから、そんなに大きくはないが、修行僧が暮らす為の部屋が全部で四部屋あった。  部屋は板張りの六畳一間で、寝起きする為だけの場所といった感じだった。 「髪の毛は、まだ切っていないな?」  墨村さんが、僕の為に作務衣を幾つか見繕って持って来てくれた。その時に髪の毛のことを尋ねられた。 「はい、切っていません。だけど、どうしてですか?」  僕が気になって訊き返すと、 「髪の毛を切って助かった者はいない。ただ、切らなかったからといって、助かる訳でもない」  と理由を教えてくれた。    まずは一つ、やってはいけないことが分かったのが何よりだった。ただ、それだけでは不充分ということか。  僕は墨村さんに礼を言うと、助かる為には、些細な情報も聞き逃さないようにしなければ、と強く心に思った。
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