黒い髪の人形

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 夕方、墨村さんが作ってくれた夕飯を一緒に食べた。その後、僕は大学とバイト先に、しばらく個人的な事情で休むことを、備え付けの電話を借りて伝えた。スマホは圏外だった。  墨村さんは、夜の九時頃から朝の五時頃迄、本堂でお経をあげているとのことだった。それが、この寺が造られた頃から続いている墨村家のお勤めだそうだ。  「僕も一緒にお経をあげさせて下さい」と頼んでみたけど、お経をあげても、あげなくても、結果は変わらない、と言われて、僕は部屋で過ごすことにした。  白色電球が一つ付いてあるだけの薄暗い部屋で、助かる為には何をすればよいのか、僕は考えを巡らせた。  赦しを乞えばいいのか、成仏を願えばいいのか、一心に救いを求めればいいのか。それとも、その全てなのか。    全くもって結論が出せないまま悶々としていると、墨村さんのお経をあげる声が聞こえてきた。  僕は墨村さんのお経を聞くとはなしに聞いていた。すると、その独特のリズムが次第に僕の心を落ち着かせていった。  これ以上考えても仕方がない、そう思った僕は、寝るには少し早いけど、部屋の隅に置かれていた布団を敷いて、その中に潜り込んだ。  
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