17人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
本命登場?
西くんから連絡がきたのは、10日ほどたってからだった。
あんなむちゃな条件をのめるひとなんて簡単にみつかるわけがない。そもそも連絡先も教えていない。
なのにふいうちでかかってきた電話に、うっかり出てしまった。はやく話を切りあげようと、てきとうに返事をしていたら、条件に合いそうなひとがいるから会わせたいと、会う予定まで決められて、そしていまは約束の金曜日の夜。まちあわせに指定された居酒屋に向かっている。
あ~、気が重い!
どうしてあんな条件だしちゃったのかな。イライラしてたからって無視すればよかったのに。そもそも、条件のんでくれる人がいるってのも本当なわけ?
ただの男2人の3Pならともかく、男同志の絡みありだよ? 西くんも、おしり開発されちゃうんだよ? それでいいの!? いや、いいならいいんですけど! わたしはありがたいんですけど!!
西くんがどう話をしたのかはわからないけれど、相手はゲイ、もしくはバイか……。それとも、もしかして西くんなみに、なーにも考えてないヤリチン仲間の可能性も。それだったら、ちょっとまずい気がする。
そもそもなにが一番まずいって、好奇心に負けてこんな所まで、のこのこ来ちゃったわたしがまずいんじゃない!? 一番のバカはわたしじゃない!?
あぁ、だけど、だけど……。
女ぐせは最悪だけど、西くんは見た目だけならまれに見るさわやかα。もうひとりの相手がどんなひとかはわからないけれど、ゲイAVにしたら、たとえモブ相手だってそこそこの売り上げをあげるんじゃないかと思う。……というか、そんなんあったらわたしが見たい。
そんなゆめのような光景が、わたしの目の前でくりひろげられる可能性があるわけだ。わたしの存在はじゃまだけれど、見れるものなら見たい! 目の前でくりひろげられるアレやソレ、そしてむつごと。
──それって腐女子の夢でしょう!?
だからって、みずからをえさに危険に飛びこむようなまねをしなくても……。と、理性ではおもうのだけど、そのでばがめ的好奇心がおさえれられていれば、こんなところまでやってきてないわけで……。
いやだって、処女ってわけでもないし?
三十路だし?
彼氏も旦那もいなくて守らなきゃならないような貞操もないし?
いいんじゃない!?
なにより、いままでの人生の半分以上を腐女子的欲望のために生きてきたよね。このチャンス、逃したら一生後悔する!
鼻息あらく心のなかでガッツポーズをして、待ちあわせの居酒屋に乗りこむ。
「いらっしゃいませ!」
店内にはいると、店員のおにいさんに景気のよい声をかけられる。普段わたしが足を踏みこまない、大学ちかくの居酒屋は、リーズナブルで学生がおおい。
金曜夜はとくににぎやかで、気のあうともだちと一緒なら一週間おつかれさまと、楽しくなるところだ。けれど今日ばかりは、いさささか気が重い。自分のテリトリーでないのは、何となく不安だけれど、知りあいにあう可能性がすくないのは、都合がよかった。
店員さんに案内されて、先にきている西くんの席に案内される。途中、ほろ酔いの大学生男子がたわむれているのを見かけて、こんな状況じゃなければ、この空間は妄想天国なのにと、うらみがましく思う。
「こちらです」ととおされた先は、こあがりのおく、さいわいなことに人目にはつかなそうな場所だ。
わたしのすがたを確認して、西くんは、きたきたと陽気に手をふった。店内にいるあふれそうなかずの、おなじ年頃の学生とくらべても、西くんはあいかわわらず見た目だけは一級品だ。
「こっちに座って~」
西くんが自分のとなりに座るように手まねいた。ほかに人がいなければ、無視して正面に座るところだけれど、すでに西くんの正面はうまっていて、あきらめてとなりに座る。
やっとでこしを落ちつけて、とんでもない条件でやってきた人をあらためて見る。
……!? ちょっとまって??
何、この空間! 天国!?
え、わたし夢見てるの?
ふぅー……と、とりあえずおおきく息をはいて気を落ちつける。
そこにいたのは、ひとととなりを知らなくても、全力で『来てよかったーー!!』とさけぶレベルの、かわいめ好青年がいた。
西くんがさわやかα系なら、こっちはαとまちがえられちゃうくらいに、できのいい優等生Ωってかんじ。西くんは一般家庭に育ったアルファみたいな、なじみやすさがあるのに対して、となりの彼はにじみ出る育ちの良さと優等生的な近よりがたさがある。
西くんとの対比が、完璧なまでに完成していた。いますぐ二人でとなりにならんでほしい。そして写真を撮らせてほしい。さらにSNSに投稿してもいいかな!?
心のなかで願望をさけびながら、素知らぬふりして「お待たせしました」とすぐにやってきたビールのジョッキを受け取った。
「あれ? わたしまだ頼んでないよ」
「先にたのんでおきました。みなみさん、ビールで良かったですよね」
西くんが、いつもの定食屋バイトのかおで、愛想よくいった。こういう気が利くところはいいんだけどねぇ、と感心してため息をつく。
「南さんもそろったところで、改めてカンパーイ!」
陽気に西くんが乾杯すると、目のまえの優等生イケメンくんが、笑顔で「はじめまして」とビールのジョッキを合わせてきた。西くんのジョッキはかわいらしいピンクいろのなにかだ。見た目のイメージは逆なんだけれど、あんがいしっくりくる気もする。
「北山智智です。西とは高校の同級生で、いまもおなじ大学です」
第一印象どおりの、きっちりとした自己紹介が好印象だ。わたしが自己紹介をかえすまえに、横から西くんがわたしの紹介をした。
「こちら、バイト先で知りあった朝川みなみさんね。あの条件だしたチョーおもしろい姉さん。因みにみなみちゃんてよぶとこわいから、よんじゃダメだよ」
こっちは対照的にてきとうな紹介だ。
『条件』と話題にだされて、なんでここで顔あわせしているのかを思い出した。けれど目のまえの優等生顔の北山くんを見ていると、その条件にOKしたしはにわかに信じがたい。ひとって見た目じゃわからないと、西くんと知りあってから、なんど目かわからない呟きを、胸のなかに落とした。
最初のコメントを投稿しよう!