彼の想い

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     ◇  西とは高校の同級生だ。出会ったころの西は、いまとおなじくらいの身長があったおれより、二十センチほど背が低くて、いまよりおさなくてかわいかった。性格もちょいおバカだけど、ひとなつこくてあかるく、すぐに同学年だけじゃなくて先輩からも注目されていた。  人気は女子だけにとどまらず、かくれて男子のファンクラブがあったのは、母校ではもう伝説だ。  最初は顔が好みだと思った。あかるい性格もじぶんにはないものであこがれた。そのころのおれは、男子も恋愛対象になりうることをうっすら感じていて、あのころ特有のうつり気で、女子男子とわず、いいなと思うひとはたくさんいた。  そのなかから、西にたいする思いが、恋だと自覚したときには、想いを伝えることなく失恋していた。西を好きだと気づいたのが、西のいちずな恋を知ったときだったからだ。  高校一年の途中から、西の身長はめきめきのびた。高校三年間で二十センチの身長差を逆転して、今では一七五センチのおれよりやや高い。それと一緒に明るい性格はそのままに、あどけなさだけがぬけて、どんどん少年から青年にかわっていった。  そしてそんな西が見つめる先には、いつもおなじ子がいた。学校のアイドルみたいな西とは対照的な、地味な女の子。だけどよく見ていれば、笑顔がかわいくて、いつもなにかにいっしょうけんめい。西はなんどもアプローチしてはことわられ、それでもその子がこまったときには、一番に気づいて手をさしのべていた。  西を見つめるうちに西の片想いに気づき、じぶんの恋を自覚した。なんどことわられても、めげずに笑顔で彼女を応援し続けるすがたに、こんなふうにじぶんも想われてみたいと思った。  西を好きになってからは、すこしでも近付きたくてがんばったけれど、アイドルみたいな西と、真面目な委員長認定されていたおれでは、共通点もすくなくて、ときおりあそぶクラスメイトのわくから、出ることはできなかった。高校二年と三年は男ともだちのふりをして、好きな子のことで落ちこむ西をはげましてきた。西のまねをして西をはげましながら、家に帰ってこっそり落ちこんだ。  どうして西に想われるのはじぶんじゃないんだろう。西が好きなのはあの子で、だけどほかにも西のことを好きな子はたくさんいる。なのにどうして西は、あの子しか好きにならないんだろう。  いつかあの子のことを西があきらめたとき、西はほかの子を好きになるんだろうか。けれどつぎに好きになる子も、きっとあの子みたいに笑顔のかわいい女の子だろう。そう考えて、ますますへこむ。  きっとおれの番は、一生まわってこない。だって、西が好きなのは、笑顔のかわいい女の子だから……。とうぜんすぎる、だめな理由に胸をいためた。  高校三年、高校生活のおわりと一緒に、西のこともあきらめようと、ひとあしはやく推薦で大学合格が決まったところで、童貞をすてた。最初は女の人。そのあとは、高校生なことをかくして行った、夜のまちで男にこえをかけられて、男のひととも寝た。  はじめて知る快感は強烈で、西へのきもちをうすれさせてくれた。  そんなことをしているうちに、西はなぜか合格不可能といわれていた、おなじ大学に入学が決まっていた。  大学に入学し、すこし距離をおいただけで、たちまち西との距離はひらいた。けれど相変わらず、西はめだっていて、あたらしい仲間とのたのしげなようすが、視界にはいってきた。西の存在はうすくなっても、きえることはなくて、この想いは染みになって、一生じぶんにのこるんだろうと思った。  忘れさせてもくれないのかと、ふてくされながら、たびたびあとくされないひとと、あとくされなくあそんだ。そして、そのうちのひとりと付き合いはじめた。どこかかわいらしい男のひとで、すこしだけ出会ったころの西に似ていた。  そのひとのことを好きになりたくて、それなりに夢中にもなった。けれど、かれにも忘れられないひとがいた。結局きずを舐め合うような関係では、たがいのあなをうめきれずに、一年もせず別れてしまった。  そんなころに、西がものすごいヤリチンになってるといううわさを聞いた。最初はまさかとうたがったし、信じていなかったけれど、まちで、大学で、うわさどおりのすがたをなんども見かけて、ほんとうなんだと確認した。  自分から距離をおいたくせに、むかしの西にもどってほしくて、はらはらしながら見まもるうちに、あっという間に高校のときの気持ちがもどってくる。  西が男にはしったなんて、小耳にはさんだのはそんなときだった。  よくよく聞いてみれば、ねらった女の子と3Pしたいから、男ともからめるひとを探してるらしい。好きであきらめて、それでもまだ好きで。  なのにだれともわからないやつに、横からさらわれてたまるかと、すぐに西と連絡をとった。 「えぇ……、マジで?」と言いながら、西はうたがうことも、とまどうこともなく「まあいっかと」おれの提案を受け入れた。そうして、今日のやくそくをとりつけたのだ。
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