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「いい部屋だね」 「ありがとうございます。お気に入りの空間なんです」 「落ち着くし、センスいいね」 「気に入ってくれました?」 「うん、私もこういう感じの部屋にしたいな」  そう、わが家は健治の趣味で黒に統一された家具。  そして、シンプルモダンのおしゃれな家具にこだわった癖に片付けられない健治。  共働きで、私も忙しいのにいつの間にか、家事分担の原則は破られ、今では家事全般を私がやっている。  あっ、私、健治の嫌いな所を数え始めている……。  新たに湧いた感情に戸惑を覚えた。考えに耽っているとコーヒーカップが目の前にコトリと置かれる。 「ありがとう」  両手でカップを包み込み、ホッとしながらコーヒーの香りとカップの温かさを堪能していた。  すると、里美が覗き込むようにして訊ねてくる。 「これから、先輩どうするんですか?」 「えっ? これから? うーん、取り敢えず帰るよ」 「違いますよ! 先輩は、旦那さんの浮気を見たんですよ。旦那さんとこれからどうするんですか?」  里美は、私を真っ直ぐ見つめて来る。  私は、後ろめたさからか、その視線から目を逸らす。  健治の浮気、里美との関係、色々向き合わなければならない問題があるのに、何処から手を付けていいのか……考えが上手くまとまらない。  近い距離に女の子特有の甘い香りが濃くなるのを感じた。里美がスッと体を寄せて来る。そして、私の肩に手を掛け、耳元に囁きが聞こえて来る。 「浮気性の旦那さんと一緒にいるのが辛いようならいつでもウチに来てくださいね。セ・ン・パ・イ」  その囁きは、背筋をザワリと撫で上げ、心の水面に一粒の黒い石が投げ込まれたよう。  それを振り払うようにカップに口を付け、コーヒーを飲み干した。  
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