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 *  野々宮が風呂から出て来るのが、思っていたより早かった。  いや、急な思い付きの行動だからこんな事は起こり得ることなんだ。  俺は、立ち尽くしながら冷静にこの場を切り抜けて帰ろうと考えを巡らせていた。 「あら、お待たせ」  バスローブ1枚を羽織った姿で、1歩ずつ近づく野々宮果歩は、さながら、狙いを定めた肉食獣のように俺を追い詰める。  後ずさってみても、狭いホテルの部屋。その壁際にある大きな鏡の前で野々宮に捕らえられた。 「野々宮、俺、悪いけどやっぱり帰るよ」  背中を鏡に押し付けられるようにして、俺は言葉を発した。  その言葉を聞いて、野々宮は、勝ち誇ったかのようにニヤリと口角を上げた。 「探し物は、見つかったのかしら? でも、パスワードを知らないとファイルが開かないのよ」  上目遣いで覗き込む野々宮に、ゾワリと寒気を覚えた。  野々宮の赤い爪が、俺のネクタイに掛かりスルスルと解き始める。 「大事なファイルにパスワードをつけるなんて普通でしょう」    野々宮はネクタイをスルリと引き抜き、椅子の背もたれに放り、背広の上着のボタンを外す。 「ねえ、パスワード知りたいでしょう?」  背広の上着をはだけさせ、ワイシャツのボタンを外し始めた。  必要に執着される事に疑問を感じる。金銭的に不自由のない野々宮なら、お気に入りの男などいくらでも見つけられるはずだ。 「野々宮、なんで……。なんで、俺なんだ」 「フフッ、私たち恋人同士なんでしょう。私が別れたいって、言わないかぎり私と別れるなんて無理なのよ」  
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