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 * 「私にとって健治ほど、相性の良い相手はいないのよ」  ボタンを外したワイシャツの隙間に手を忍ばせ素肌をまさぐる。  はだけたワイシャツの間に顔を寄せ、胸板に唇を寄せた。 「体目当てかよ」 「そうよ、悪い? だって、健治はお医者さんじゃないから結婚できないでしょう。フフフ」  野々宮果歩、緑原総合病院の一人娘・跡継ぎとして、病院を引き継げる医師と結婚する事が絶対条件。  薬学部卒の俺では結婚相手の条件には当てはまらない。これは、大学時代から聞いていた事だ。  もちろん、当時、学生で若かった俺には付き合っていても結婚という意識はなく、女優のように美しく、お金持ちの野々宮果歩は彼女として一種のステータスシンボルだった。  わがままできまぐれの厄介な性格も、あの頃はまだ、甘ったれたり可愛い所を探すことが出来た。  でも、今はマイナス面が目につく。 「結婚したって、俺じゃ、お前を養いきれない。ごめんだね」  カチャカチャとベルトを外す音が聞こえた。  そして、チリチリとスラックスのチャックが下ろされ始める。  この先の事態に諦めの気持ちが色濃くなり、それでもわずかに(あがな)う気持ちが言葉を紡ぐ。 「俺を解放してくれ、もう十分だろ。お前では心が休まらない」 「嫌よ。放してあげないわ」 「悪魔のような女だな」 「ふふ、欲に溺れて、楽しめばいいのよ。」  ボクサーブリーフに手を掛けられた。    悪魔に囁かれ、狡猾な落とし穴に嵌り、どこまでも深く落ちていく。   
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