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*  自宅の玄関を開ける前、時計に視線を落とした。  時刻は午後11時半になろうとしている。  もしかしたら美緒は、もう眠ってしまっているかなっと思いつつ、そっと玄関のドアを開ける。  「ただいま」と小さく呟き、足を進めるとリビングから人の気配がした。  美緒が起きているのを嬉しく思ったが、野々宮の誘惑に負けそうになった自分に後ろめたさを覚える。  リビングのドアをそっと開け中を覗くと、TVドラマに夢中になって見入る美緒の姿を見ける。  俺が帰って来た事に気が付いていない様子だ。  足を忍ばせて近づき、手にしていたビジネスバッグを足元へ置いた。  まだ、美緒はテレビに夢中で、俺が近づいた事に気づいていない。  後ろからギュッと抱きしめ「美緒、ただいま」と囁いた。 「きゃー!」  悲鳴を上げる美緒の口を慌てて塞ぎ、”しーっ!”っと、人差し指を立てた。 「俺だよ。ごめん。驚いた?」  と聞くと、美緒は涙目でコクコクと頷く。  その顔が可愛らしくてクスリと笑うと、美緒はムゥっと頬を膨らませた。  温かくて優しいこの空間は、美緒が居てこそのものだ。 「驚かせて、ごめん」  と言って、もう一度抱きしめた。   もしも、ラウンジで一緒だったのを誰かに見られていたら……。  美緒に事実と違う内容で伝わってしまったら……。  と不安に駆られる。 今日、野々宮と会った事を話してしまいたい。  しかし、野々宮の実家の病院を担当すると伝えた時にさえショックを受けていた様子だったのに会った事を話したらもっとショックを受けるのではないだろうか。  ましてや、取引情報と引き換えに部屋まで行って、危うく浮気しかけました。なんて、説明しようもない。  この事が美緒に伝わらないよう祈るしかない。
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