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sede 健治  朝、会社のデスクに積み上げられた書類を前に、ため息を落とし仕事を始める。 左手の薬指に嵌められた結婚指輪に視線が止まり、ふと美緒の事を思い出す。  昨晩、お風呂から上がると、既にリビングが暗くなっていて、酷く寂しく感じられた。  可愛く頬を膨らませて怒っていた美緒だったのに、抱きしめた後は、なぜだか素っ気なさを感じてしまい不安が胸に広がる。  だが、秘密を抱えた後ろめたい気持ちが、そのように見せているのだろう。  気持ちを切り替えて書類に向かうとデスクの電話が鳴り響く。  一瞬、野々宮関連の言い掛かり的なクレームを想像したが、そんな事はなく同僚の立石から病欠の連絡だった。  過剰に反応している自分に苦笑する。  予定を組み替え、病欠した部下の穴を埋めなければならない。  自分のスケジュールを組み直し、後日に変更出来るもの、急ぎのものと振り分け、病欠した立石のフォローに回る。 そして、病欠した立石の予定をチェックする。 「立石の今日の予定は……」  予定表には、藤川区の医院にお昼休みを利用しての勉強会が入っていた。  こればっかりは、既に何日も前から医院と日にちの調整を行い。お弁当の手配をし、資料を準備しているはずだ。絶対に穴を開けられない予定だ。  具合の悪い立石には悪いが、折り返し連絡を入れて、詳細を確認する。  聞けば、準備はすでに昨日の内に終わっており、機材を車に積むだけで、仕出し弁当予約などの手筈は整っていた。  「おだいじに」と電話を切る。  もしかして、と期待を込めて詳細の資料に目を通す。  すると、やはり、美緒の勤めるさくら薬局の隣にある、蒔田医院での新薬説明会だ。  
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