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Side 美緒 「お大事になさってください。お気をつけて」 午前中の最後の患者さんを見送り、里美や事務のスタッフにも声をかけた。 「お疲れ様です。お昼にしましょう」 「やったぁ。今日は、勉強会のお弁当!」  スタッフのみんながはしゃいでいる。  豪華弁当だもん。はしゃいじゃう気持ちはすっごくわかる。 「私、隣に行ってお弁当もらって来ますね」  店舗を出て隣の蒔田医院に向かう。  駐車場に停まっている製薬メーカーさんの車に入っている社名が”アルゴファーマ”と入っていて、健治が勤めているメーカーだと思った。  そう言えば、栢浜(かやはま)市の担当になったって言っていた。  でも、ここの地区の担当さんは立石さんと言う人だ。健治が来るとは聞いていないなと、思いながら蒔田医院の中に入った。  すると健治が待合室でスクリーンの準備をしている。もしかしてとは思ったけれど、本当に居るとは思わなくて驚いて声をあげてしまった。 「えっ? どうしたの?」   「担当が病欠で代打になったんだ。美緒は?」  健治も隣の医院に私が入って来るとは思っていなかったのだろう。 「私も勉強会に参加するから、お弁当だけ先に貰いにきたの」  仕事先の意外な場所で会うのは、なんだかソワソワと落ち着かない。 「驚いたよ。美緒に会えるなんて思っていなかった。弁当、口に合うといいな」  と、健治が優しい瞳で私を見つめた。 「あっ、お弁当もらって、薬局に届けないと」  事務員さんの方に向き直ると怪訝な感じで私の方を見ている。  勉強会に来たMRさんと親し気に話している様子が、違和感を与えてしまったのだろうか?   ちゃんと言っておいた方が良いかなと思い、簡単な紹介をした。 「あの、すみません。偶然なのですが、今日の勉強会の担当MRさん、主人だったんです」  私が事務員さん達に言うと健治からも一般的な「家内がいつもお世話になっております。」と挨拶をする。  すると、なぜか事務員さん達が、バツの悪そう顔で顔を見合わせた。  その様子を疑問に思いながら、私は店舗の分のお弁当を受け取った。    
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