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Side 健治
美緒に会って安心した。
何もやましい事が無いから、普通に俺の事を紹介したのだと理解できた。
確かに診察時間中は美緒も仕事があるからどうしたって診察時間の合間に治療を受ける事があるのだろう。
女性が噂好きなのは致し方ない。
お弁当を店舗に持って行った美緒が、もう一人女の子を連れて戻って来た。
美緒の話に出て来る後輩なのだろうか?
「健治、さくら薬局で一緒に働いている小松里美さん。いつも助けてくれているの」
美緒が俺の事を紹介すると、小松里美は挑むような視線を俺に向けた。
「初めまして、小松です。いつも美緒先輩にはお世話になっております」
「こちらこそ、いつも美緒がお世話になっております」
美緒の後輩、小松さんの俺を見る瞳は軽蔑の色含んでいる。
そして、思い当たる。
渋谷のファッションホテルから出て来たのを美緒が見たあの日、後輩と出かけ、家に泊まったと言っていた。
俺が美緒を裏切ったのを一部始終知っているのかもしれない。そればかりか、美緒が悲しむ姿も見ているはずだ。
美緒が受け入れてくれて、その優しさで俺を許そうとしている。それを享受するだけの俺を後輩のその瞳は、「許さない」と言っている。
この目は、本来、美緒が俺に向けるはずの瞳だ。
俺は、美緒を優しさで懐柔し、その責めから視線を逸していた。
後輩が俺を見る瞳は、俺が咎人で有る事を思い出させた。
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