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 * 「……新しく発売の健忘症薬の説明は、以上になります。ご質問がございましたらどうぞ、個別でも伺わせて頂きます」  昼休みの時間帯を利用しての新薬説明会。時間にして30分程度だが、自社の製品の理解を深めてもらう事で、患者さんへの投薬へと繋げていく。  急な代打だったが、問題も無く説明出来た事にホッと安堵の息を吐く。  蒔田医院長を始め、美緒や小松さんもお昼のために引き上げようと席を立ち、美緒は俺に小さく手を振り、隣のひまわり薬局へと帰って行った。    機材の片付けを始めようとスクリーンに手を伸ばす。すると、三崎医師が声を掛けて来た。 「すみません。質問なんですが、逆行性健忘、前向性健忘での投薬時の薬効の差のデーターなどはお持ちではありませんか?」 「恐れ入ります、後ほど会社へ戻って臨床データーをお送りいたします。メールでの送信でよろしいでしょうか?」    間近に見る三崎医師は、男として仕事への自信に満ち、誠実そうな印象。 それに医師ならば、収入もそれなりに良いはずだ。  そんな存在が美緒の側に居るなんて……。  俺は、三崎医師の為人(ひととなり)を知りたくなった。  それに事務員さん達の噂も気になる。  美緒の主治医は、三崎医師で間違いないだろうと言葉を切り出す。  
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