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「ただいまー」  玄関ドアを開け、部屋に入る時に誰もいなくてもつい習慣で ”ただいま”と言ってしまう。  暗い部屋の電気を付けて、手を洗う。 家でひとりになると、つい健治の事が頭をよぎる。    他の人の病欠の穴埋めまでした健治と蒔田医院の勉強会で会ったばかりだ。 健治の仕事が忙しいのは重々承知している。 けれど、帰りが遅いとなると、本当に仕事かどうか、疑わしく思う。    昨夜、甘い香りを付けて帰って来たけれど、それは、浮気だったのか、仕事だったのか。  今日みたいに実際に働いているところを見ると、浮気ではなくて、やっぱり仕事で遅いのかな?と思う。  甘い香りも混んだエレベーターの中でついたとか、誰かとぶつかった時のアクシデントでついたとか……。  でも、本当は、野々宮さんとは別れていなくて、会っているのかなとも……。  その時によって、良い様に考えたり、悪い様に考えたり、心の中は不安定になっている。  今、2人の間に足りないのは、一緒にいる時間でコミュニケーション不足だ。 「この先、どうしたらいいんだろう……」  いけないと思いつつ、スマホのGPSアプリを開く。スマホの画面に表示された地図には、赤い丸が点滅している。その場所が、健治が勤めるアルゴファーマのビルと場所が重なり、ホッとした。   「健治、仕事してる……」 こんなGPSを使って、確かめないと安心出来ないなんて……自分嫌になる。 何時になったら、健治を信じる事が出来るんだろう。 不安な気持ちが無くなるんだろう。  答えのでない問いかけを自分の中で繰り返した。  
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