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Side 美緒
「ただいま」
手抜きのおうどんを食べている途中で、玄関の閉じるバタンという音と健治の声が聞こえる。
チラリと壁の時計を見ると午後9時。
最近の中では、まだ、早い帰宅時間だ。
残りのおうどんを慌てて口に入れ、モグモグとしていたらリビングに健治が入って来た。
頬張っている姿を見られて、恥ずかしく手で口元を隠しながら嚙み砕いたおうどんを飲み込み「おかえりなさい」と声を掛ける。
健治は、ホッとしたような表情を見せ「ただいま」と、もう一度言った。
背広を脱ぎ、ネクタイを緩めソファーに深く身を沈める。
酷く疲れている様子で、連日仕事に追われて深夜の帰宅が堪えているのだなと思った。
「ごはんは? 私、おうどん食べちゃったけど、健治もまだなら食べる?」
「お願いしていいかな?」
「ん、わかった。ちょっとまってね」
自分で食べた分のどんぶりを持ってキッチンに移動し、健治の分のおうどんを煮始め、カウンター越しから健治の様子を伺う。
健治はぐったりとソファーに身を預け、目を瞑っていた。
昨晩、健治のカバンの底にGPSカードを仕込んだ事には、気付いていないみたいだ。
健治には悪いけれど、もう一度信じられるようになるまで、GPSカードで監視を続けたい。じゃないと、私の心が持たないと思う。
煮上がったおうどんをどんぶりによそい、テーブルの上にコトリと置くと、
健治はソファーの上で目を瞑ったままだった。
疲れて寝ちゃったのだろうか。でも何も食べないのも良くない。
私は、健治にそっと近付き肩に手を添えた。
「おまたせ、出来たよ」
「ん、ありがとう」
健治は、私の手にそっと自分の手を重ね、弱々しく微笑んだ。
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