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昨日、甘い香りを付けて帰ってきた事を聞こうと思っていた。けれど、こんなに疲れている様子を見てしまうと、今はそのタイミングではないように感じて、言い出せなくなってしまう。
「私、お風呂入って来るから寝ないでちゃんと食べてね」
「ん、わかった。美緒、ありがとう。ごめんな」
健治の頼りなげな様子に心配になってしまう。
リビングに健治を残して、お風呂に入ると、あのテーブルで1人で食事をした寂しさを健治にさせてしまったと思い当たる。
仕事で疲れて弱っている時ぐらい、別にしゃべらなくても目の前の座っているだけでも慰められるはずだ。
コミュニケーションが足りないと自分でも思っていたのに、一緒に居ないなんてダメだなと思った。
落ち着かない気持ちになり、体や頭を洗って早々にお風呂から上がる。
ルームウエアに身を包み、まだ、濡れた髪にタオルを巻いてリビングに戻ると、既に食事を終えた健治がソファーに座っていた。
「お風呂お先に」
「ごちそうさま。なんだ、髪が濡れたままで風邪引くよ」
健治は、スッと立ち上がり洗面所からドライヤーを持って来た。
「おいで、髪、乾かしてあげる」
「えっ? いいよ、健治も疲れているのに」
「俺がやりたいの。おいで」
健治がソファーに座り、私はその手前の床に腰を下ろした。
頭に巻いたタオルを外し、ドライヤーの温かい風が送られてくると、髪の間を梳くように健治の優しい手が私を撫でる。
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