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 Side 健治  温かい風を送りながら、美緒の髪を優しく撫で、指で髪を梳く。  こうしているだけで、疲れた心が癒されるようだ。  落ち込んだ気持ちが、浮上する。  美緒を失いたくない。  その気持ちを強くするばかりで、美緒を大切にしたいのに、思うようにいかない自分の状況にもどかしさを感じる。  乾き終わると美緒の頭にチュッとキスを落とし、少しばかりの勇気を奮い立たせる。 「美緒、相談したいことがあるんだ。週末時間とれるかな?」  すると、美緒が渋い顔を見せた。   「んー。土曜日半日の仕事が終わった後、後輩の家に泊まりに行こうかと思っているんだ。日曜日の午後でもいい?」 「後輩って、小松さん?」 「そう、今日、会ったでしょ」  俺に向けられた、小松さんの軽蔑の色含む瞳を思い出す。  俺が咎人(とがびと)で有る事を責める強い視線。   「ああ、行っておいで。でも、美緒と一緒に居られる時間が減ってしまうのは寂しいな」  本当は出掛けて欲しくない。自分の側に居て欲しい。この腕の中に抱きしめていたい。誰にも渡したくない。  我が儘を言ってるのはわかっている。それでも言葉がこぼれる。 「健治がいつも遅くて一緒の時間が取れないんだよ」   「ん、ごめんな。俺も早く帰って来て美緒との時間を作りたいよ」  そうだ。大切にしたいものを大切に出来なくて、なんのために仕事をしているんだ。  日曜日なったら美緒と話をして、これからの生活を立て直そう。  自分の足元に座る美緒をギュッと抱きしめた。 「美緒、ごめんな」  
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