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*   緑原総合病院との関わりを絶ちたいと思っている傍から、今回の話。  これは、どう考えても野々宮果歩が裏で、父親に働き掛けているのだと察しがつく。  俺に対する情念を感じ、ゾワリと背筋が寒くなる。  咄嗟に立ち上がり、俺は宮本部長に深く頭を下げた。   「宮本部長、どうか栢浜(かやはま)市の担当から外していただけないでしょうか」 「藪から棒に何を言っているんだ。この緑原総合病院の取引は君に掛かっているのに、栢浜(かやはま)市の一強、三栄製薬に風穴を開けられるチャンスだと君だって分かっているはずだ」 「そうだぞ。この期に及んで、菅生君は何を言って居るんだ」  もちろん、宮本部長がこの様に考えるのは至極当然の事。横にいる友部課長だって、俺の名前を呼んでオロオロしている。 「大変申し訳ございませんが、緑原総合病院の件は私には手に余るお話です。誰か、他の者に……お願い致します」  宮本部長には、入社以来、目を掛けて貰っていた。  それなのに、組織の一員として、自分がとんでもない我儘を言っている自覚はある。  同じ大学出身の宮本部長には、入社から可愛がって貰っていた。  酒の席ではMRとしてのウンチクを披露され、上司の戯言と閉口しながら耳を傾け、それが後々役に立つ事もあった。    ふと、同じ大学出身……その事が心に引っかかった。  それなら、野々宮果歩も同じ大学の薬学部だ。すると、野々宮の親も医学部で同じ大学だった。可能性がある。   ”学閥” その言葉が、頭を()ぎる。
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