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「美緒、おはよう」
土曜日の朝、リビングのドアを開けた俺は、身じたくを終えた美緒を見つける。
「おはよう、健治、お休みなのに早起きだね。毎晩残業で疲れて居るんだから、ゆっくり寝てて良かったのに」
仕事に行くはずの美緒の服装は、生成り色のワンピース。白いジャケット羽織ると、オフィスカジュアルな印象で、いつもより華やいで見えた。
「今日、美緒は仕事の後、小松さんの家に泊まりに行くんだろう? 」
「う、うん」
そう言って、美緒は視線を何気なく泳がせた。
小松さんの家に行くだけなら、オシャレな装いなど必要じゃないはず……。
その態度に一抹の不安を感じ、気持ちがざわつく。
「俺は持ち帰りの仕事があるから、今日はなんだかんだ言って忙しいな。夕飯もテキトーに食べて置くから気にしないで楽しんでおいで」
「うん、ごめんね。明日のお昼には帰れると思う」
「じゃあ、帰る前に連絡して。お昼ごはんは、一緒に食べよう」
「ありがとう、帰る時にメッセージ入れるね。じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
ざわつく気持ちを必死に押さえ込み、華やかな装いの美緒を作り笑顔で見送った。
パタンとドアが閉まると気持ちが沈む。
「さあ、仕事するかぁ」
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