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 *  持ち帰りの仕事。  それは、言わずもがな緑原総合病院のジェネリック薬品の見積もりだ。  ダイニングテーブルの上にパソコンを広げ、入力をしていくが、気の乗らない案件には集中力が続かない。それでも何とか終わりが見えて来た頃には、空が赤く染まり始めていた。 「ふぅ、やっと終わった」  凝り固まった肩をほぐすように大きく腕をまわし、窓の外へ視線を移す。  自宅にひとりきりで居るのも久しぶりで、夕日の差し込む部屋は、どことなく物悲しさを漂わせていた。 「夕飯どうしようか……」   いつもなら、美緒が温かいごはんを用意してくれる。ひとりきりだと、食事を考えるのも億劫だった。 カップラーメンで済ませてしまおうか、っと後で美緒にバレたなら怒られそうな考えが浮かぶ。  すると、不意に社用のスマホが振動を始め、着信を告げる音楽が鳴り出した。  画面を見ると、知らない番号が表示されている。  休みの日とはいえ、仕事の電話、取引先の病院の先生かも知れない。  コール音が鳴り終わらないうちに通話ボタンを押した。 「はい、㈱アルゴファーマ 医薬情報担当 統括 菅生健治です」 「ふふっ、私よ。お仕事は順調かしら?」  
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