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 湯舟に入浴剤を投げ入れる。それは波紋を広げ、小さな気泡を出しながら沈んでゆく。それをぼんやりと見ながら、バスタブに溜まったお湯の中にゆっくり足先から浸かる。お湯の温かさがじんわりと染み込み、ふぅっと息を吐く。さっきまで透明だったお湯が、入浴剤の桃の香りの薄紅色に染まっていく。やがて、シュワシュワと泡を立てながら小さくなり、溶けて消えた。  昨日の事を思い起こすと視界が歪み、涙がお風呂のお湯にポタポタと落ちて、新たな波紋を作り始める。  大学時代の健治は、リーダー格で人気者、いつも周りに人がいた。それに比べて、地味で引っ込み思案の私は、健治を羨望の眼差しで見ていた。    久しぶりに再会したのは、友人の結婚式。憧れの人だった健治に誘われて、夢見心地で一夜を共にした。きっと、27歳になってまでバージンとは思わず、つまみ食いのつもりだったのだろう。  一度だけの関係で良いと思った。初めての人が健治だったという思い出だけで十分だった。  でもなぜか、健治から交際を申し込まれ、お付き合いが始まり、やがてプロポーズ。  舞い上がる気持ちのまま結婚。そして、2年が経っていた。    いまどき、バージンを奪った責任なんて事は無いだろうけど、もしかしたら、最初から健治に愛されていなかったのかもしれない。恋愛事に疎い女は、元カノとの情事の隠れ蓑にちょうど良かったのだろう。    私、健治に裏切られたんだ。  もしかしたら最初から愛されていなかったのかも……。  
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