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 一歩先へ踏み出したい気持ちと、それを止める良心が心の中でせめぎ合う。  うつむいた視線の先には、左手薬指に結婚指輪が鈍く光っていた。  それを目にした瞬間、浮ついていた気持ちがスッと冷え、「離婚」という二文字が頭の中にチラつく。    自分の置かれた状況が辛いからといって、三崎君に甘えすぎている。  私は、モゾリと身を起こした。 「肩貸してもらっちゃって重かったでしょう。ありがとう」 「気持ち悪くない?」 「三崎君のおかげで楽になったの。もう、大丈夫」  おどけて言うと、三崎君は心配そうに眉をさげた。 「それなら良かった。でも無理したらダメだよ」  私は、右手を肩の高さに上げ、宣誓よろしく声をあげる。 「はい、三崎先生の言うことは、肝に銘じます」   「そうそう、お医者様の言う事は良く聞くようにね」  ふたりして顔を見合わせ、クスクスと笑えば、すっかり、いつもの友人同士の距離にもどる。  ダメな自分に惑わされなくて良かったと、ホッと息をついた瞬間、スマホが着信を知らせる。   慌ててバッグから取り出したスマホの画面には、母の電話番号が表示されていた。   「もしもし、お母さん。どうしたの?」 「びっくりしないで聞いて。今ね、おばあちゃんが倒れて、救急で病院に来てるの」 「えっ、おばあちゃんが⁉ 私もこれから行くから。どこの病院なの?」 「緑原総合病院よ。美緒が来てくれるなら心強いわ」   
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