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「お父さん、お母さん」  緑原総合病院の夜間救急。  薄暗い廊下へ置かれた長椅子に座っている両親を見つける。ふたりは会話をするでもなく、手術中と書かれた赤いランプを疲れた顔で見つめていた。  私の声に気づいた母が、ハッとして、こちらへ向く。 「あっ、美緒。ごめんね、ビックリしたでしょう」 「私は大丈夫。それより、おばあちゃんの容態どうなの?」 「胆のうがどうとかって……、先生に説明してもらったけど、気が動転してせいか、よくわからないて……」 「そう……。とにかく、今はおばあちゃんが無事に手術を終えるのを待つしかないのね」 そう言って、私は長椅子に腰を下ろすと、横に居る母がもたれてくる。 心細い時には、大人だって誰かに甘えたくなるし、温もりを感じて安心したくなるのは、仕方ないと思う。 私は、大きめのバッグからブランケットを取り出し、母の膝を包んだ。 まんじりとしない時間だけが過ぎて行く。 「夜遅くに美緒を呼び出して、健治さんにも悪い事しちゃったわ」 「大丈夫だから、気にしないで」 「そう? 健治さん優しいのね」 母の言葉に、私は瞼を閉じ、ここに来るまでの事を思い出していた。 温もりの消えた薄暗いマンションの部屋。 私は健治の仕事用カバンを探した。それは、いつものリビングチェストの上に置かれていて、グチャグチャな私の気持ちをさらに掻き混ぜた。 健治への不信感から、仕事用のカバンにGPSを仕込んだって、肝心な時に役に立たなければ意味が無い。 自分の馬鹿さ加減に乾いた笑いが漏れた。 「夫婦でいる意味があるのかな……」 薄暗い部屋の中で、私はぽつりとつぶやいた。  
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