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病院での付き添いは時間が読めない。身体を冷やさないようにとクローゼットからブランケットを取り出し、大き目のバッグに詰め込む。
深夜、部屋にひとりで荷造りをしていると、まるでこの家から出て行くための荷造りをしているみたいだ。
昔見たテレビドラマみたいに「私、実家に帰らせて頂きます」って、言ってみようかと、ふと思ってしまった。
果歩との不倫がバレた時、必死の弁解をしていた健治。その舌の根の乾かぬ内に疑わしい行動をしている。
これで、もう裏切らないと言われても、どうやって信じればいいのだろう。
私はぼんやりと空のベッドを見つめた。
「離婚をしたら、おばあちゃんが悲しむだろうな」
純白のウエディングドレスを身に纏い、永遠の愛を誓った私の幸せを、涙を流し喜んでくれた祖母。
今だって、孫の顔を見るのを楽しみにしているはずだ。
でも、こんな気持ちを抱えたままで、健治との子供を身ごもるなんて考えられない。
健治が果歩と不倫をしているのを知ってしまってから、どんどん気持ちが離れてしまっている。
ゆっくりと瞼を開くと、見えるのは薄暗い病院の廊下。
私は肩に寄りかかる母の重みを感じた。母の横には、腕を組み目を瞑っている父の姿があった。
視線をあげると、手術中の赤いランプが光っている。
母は父の不倫を知ったとき、どうやって気持ちに折り合いをつけたのだろうか。
父は何故、母を悲しませるような事をしたのだろうか。
結婚って、なんだろう。
幸せになるために結婚をしたはずなのに、どうして、こんな気持ちになっているんだろう。
疑問ばかりが浮かんでくる。
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