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手術中の赤いランプが消えた。
扉が開くと、看護師さん達が祖母を乗せたストレッチャーを押し、手術室から出てきた。
「おばあちゃん」
「母さん!」
私たちは、麻酔が効いてぐったりとしている祖母へ駆け寄った。
ストレッチャーの上で眠る祖母は、普段より顔の皺が深く刻まれていて生気のない様子が痛々しい。
母は、執刀してくれたお医者様へ、深く頭を下げ、「ありがとうございます」と、お礼を言って居る。
お医者様の説明では、今日は、このまま集中治療室へ入り、容態が安定しているようなら、明日には個室に移るそうだ。
個室に移ると、担当医が、外科の先生から内科の先生にバトンタッチをして、術後の回復に当たるらしい。
集中治療室へ入ったなら、これ以上病院に居ても、何もできない。
とりあえず、無事に手術を乗り切った祖母の顔を見れただけでも、良かったのかもしれない。
「一旦、家に帰って、明日、個室に移る頃に出直そう」
父は、そう言って、疲れた顔の母の背中を支えた。
私は、色々な事を乗り越えて来た両親の後ろ姿をしみじみと眺めてしまう。
すると、母が振り返った。
「美緒も一緒に家で休みましょう。疲れたでしょう」
「うん、悪いけど、私も一緒に行って休ませてもらうね。ごめんね」
「何言ってんの。結婚しても自分の実家でしょう。美緒の部屋もそのままにしてあるし、遠慮する事ないのよ」
「……ありがとう」
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