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Side 野々宮果歩
「はぁ、」
ソレを受け入れた刹那、ゾクゾクと背筋を這いあがるような快感が走る。
自分の中が満たされていく、久しぶりの感覚は、夫からは得られない物だった。
濡れた舌先で唇を舐め、髪をかきあげた。
自分の下に組敷いた、この男は、わたしのモノだと思い知る。
離れていた間、どれだけイラついたことか。
わたしより、あのつまらない女を選ぶなんて、ありえない。
「ねえ、気持ちいいでしょう。もっと動いてあげる」
「やめ……」
口では抵抗していても、健治の体は反応している。
健治の端正な顔が、腰を振る度に苦しそうに歪むのは、感じている証拠だ。
どんな事でもいい。
あの女より、わたしがいいと言わせたい。
腰をくねらせながら力を入れ、健治のモノを締め付けた。
「もっと?」
「……」
わたしを欲しがって欲しいのに、健治は顔を歪ませたまま、答えない。
大学の頃の健治は、今よりもっと優しかったし、なによりわたしに夢中だった。わたしのマンションで、朝まで一緒に過ごしては、そのまま大学に行く事もあった。
あの頃のように楽しく過ごしたいだけなのに、最近は何もかも思い通りにならない。
緑原総合病院の一人娘として、病院を継いでくれる医者と結婚しなかればならなかった。それは、子供の頃から父親に言われていたから、仕方のない事だと思っている。
だから、好きでもない男と父親に言われた通りに結婚した。
でも、まだ、わたしは自由でいたい。
健治と楽しく過ごしたいだけ……。
だから、それを邪魔されるのは許せない。
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