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 それが、思わぬ形で成明に知られる事になったのは、術後、想像以上の出血で貧血になり、動けなくなってしまったから。  医院の診察時間が終了しても、身体が動かず帰るに帰れなくなってしまっていた。  宿泊設備のない個人医院では、体調が戻らなくても入院が出来なかった。 それに、入院するほど重症なら、大きな病院に搬送される事となる。そうなると緑原総合病院へ搬送されかねない。 もし、堕胎手術の影響で、野々宮家の一人娘が緑原総合病院に運び込まれたと父親に知れたなら、どんな怒りを買うのか想像もつかなった。  だから、搬送されるなんて、絶対に無理。  仕方なく、夫の成明に病院の看護師に連絡をしてもらうしか、難を逃れる方法が思いつかなったのだ。  病院の処置室に置かれたベッドの上で、ウトウトとまどろんで居るとバタンとドアが開いた。  わたしは、横になったまま、成明が来たのだと認識した。 「果歩……。どうして」と成明はつぶやいたが、その先の言葉は言わずに、わたしを横抱きに抱きかかえ、車の後部座席へ運んでくれた。 ここに来て初めて、成明との子供を堕してしまったという、後ろめたさを感じた。 わたしは、どうしていいのか分からずに、モゾリと身じろぎをして、やり過ごそうと思考が動く。  目の前には、心配そうに眉尻を下げた成明に、わたしは理不尽な苛立ちを覚えた。   「家に帰るよ。貧血が辛いようなら緑原総合病院に行って、栄養剤の点滴でも受けるか、どうする?」  どこまでも優しい成明の心の底が見えない。  この人も父に言われて、わたしとの結婚を選択した人。だから、表面上はわたしに優しくしているだけだと知っている。  そう、わたしは怒られて当然のことをしたのだ。だから、成明には感情をぶつけて欲しかった。  所詮、お互いを好きでもない。病院を継ぐためにあてがわれた二人。  なんて、つまらない人間関係のだろう。 「はーっ、ナイショで処分するつもりだったのに、あなたにバレちゃったわね。しょうがないから家に帰るわ。お父様に知れたら一大事だもの。病院になんて絶対に行かない」  八つ当たり気味に投げつけた言葉に、成明の表情がサッと消える。  「あっ」と思った。   わたしは、間違えたのだ。
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