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 健治に会いたい。  そう思った時、自然とスマホのボタンを押してした。  健治にアポイントメントを取ったのは、結婚前が最後だったけれど、メモリは消せていなかった。  コール音が鳴る度に、わたしの胸は初恋の少女のように高鳴っている。 「はい、菅生の携帯です」    4年ぶりの通話。電話番号が変わっていなくて良かったと、心から安堵した。そして、久しぶりに聞く健治の声に、わたしの心臓はドキンと大きく跳ねる。  そんな自分を知られないように大人の女性として振舞った。 「お久しぶり、健治。わたしの事覚えてる?」 「ああ、野々宮だろ。久しぶりだな」  やはり、健治は、わたしの事を忘れられないでいたのだ。  そう思うと自然と口角が上がり、わたしは気分が高揚した。 「実は、折り入って相談したいことがあるの。力になってくれないかしら……」  言葉巧みに食事に誘い、わたしは健治と会う手はずを整えた。  これでまた、恋人同士に戻れたら……わたしの心は満たされるはずだ。  何もかも思惑通りに上手く行く。  そう思ったわたしの予想に反して、健治の左手薬指には結婚指輪が嵌っていたのだ。  それも、健治の結婚相手はわたしも知っている女、浅木美緒。  なぜ、あの女が健治を手に入れたのだろうか?  わたしが渇望したものを、あのつまらない女が、いとも容易く手に入れるなんて……どうしても許せなかった。  そして、健治を誘惑し、大人の関係になった時は、「やっぱり、わたしがよかったのに、仕方なくあの女を変わりにしたんだ」と溜飲をさげたものだ。  それなのに、「これからは美緒との生活を大切にしたい」だなんて……。  健治がわたしより、あの女を選ぶなんて、どうしても納得ができなかった。    結婚なんて仕方なくするだけの、ただの制度だ。  健治だって、きっと、仕方なくあの女を選んだにちがいない。  だって、わたしの方が良いに決まっている。  わたしなら、健治に有利な取引をしてあげる事が出来るし、それによって健治の出世だって早くなるだろう。  あの女より、わたしの方が優れているのだから。  今、健治はわたしに組み敷かれている。  そして、わたしは、満たされていた。  
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