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Side 菅生健治  ホテルの分厚いカーテンの隙間から、日の光が漏れている。  ベッドから起き上がろうと、身じろぎした途端、ズキンとこめかみに痛みが走った。  昨晩、野々宮に呼び出され、浴びるほど酒を飲んだからだ。  それでも、ギシッとベッドをきしませ無理やり起き上がったのは、熱いシャワーを浴びて、きれいに身体を洗い流したかったから。  その振動が伝わってしまったのか、野々宮が目を開ける。    「おはよう、健治。ねえ、この後も一緒に居れるでしょう。わたし、フレンチ ベイ・ビューで海を見ながら食事がしたいわ」 「いや、今日は用事があるから帰る。それに日曜日なんだ、休ませてくれ」 「なんだ、つまらないの。でも、しょうがないわね」    そう言って、野々宮は不貞腐れように上掛けに深く潜る。  野々宮とは仕事上の付き合いだと、自分自身に言い訳をする。  実際、どうしても断れない取引を持ち掛けられ、その代償のようにベッドに誘われた。  これが、男女逆の立場なら間違いなくセクハラだ。  合意だというなら、枕営業になるのかも知れない。  元はと言えば、自分の蒔いた種(不倫)が原因だが、別れたはずの野々宮に執着され、最悪の気分だ。    野々宮をベッドに残し、スマホを片手にバスルームのドアを閉めた。  カチッと施錠し、ひとりきりになり、ホッと息を吐く。    刹那、スマホが手の中で、震えた。  画面には、美緒の名前でメッセージが届く。   「あっ……」  思わず声がもれ、罪悪感が胸に押し寄せる。  俺は、自分で言った約束を破ってしまったんだ。  美緒を失うかもしれない。  
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