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震える指でスマホの画面を開いた。
自分の犯してしまった罪の後ろめたさから、美緒からのメッセージを見るのが怖かった。
昨晩、美緒は小松さんの家に泊まると言っていた。そして、お昼には帰るとも。
もしも、なんらかの理由で美緒の予定が変わり、俺が外泊したのがバレてしまったら……。
スッと、息を吸い込み、スマホに視線を落とす。
メッセージの内容は、美緒の祖母が急遽入院した事、昨晩は実家に泊り、また病院に行くから昼には帰れない、と書いてあった。
「助かった……」
美緒に外泊がバレなかったと、ホッと息を吐き、シャワーブースに移動した。キュッとカランを上げると、熱めのお湯が吹き出した。
酷く汚れてしまった気がして、野々宮の痕跡を消すようにゴシゴシを力を入れ、皮膚が赤くなるほど擦り上げた。
自分でもバカだと思う。
野々宮と関係を続けても、良い事などないとわかっている。
けれど、自分だけでなく、恩のある上司の出世まで匂わせられて、断れなかった。
結局のところ、自分の弱さがすべての原因なのだ。
やり場のない怒りをぶつけるように、シャワーブースの壁に拳を叩きつける。
「くそっ!」
握った手のひらには、後悔という鈍い痛みだけが残った。
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