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「お母さん、おはよう」  寝不足で迎えた朝、私は実家の台所で朝食の準備をしている母の背中に声を掛けた。 「美緒、起きたのね。ごはん食べれる?」 「うん、私も手伝うよ」  炊き立てご飯の香りが胃袋を刺激して、食欲なんて無かったのに、途端にお腹が空いてくる。 「美緒、お茶碗だして」 「うん」  食器棚の場所も、その中にあるお茶碗も、私が子供の頃から同じ位置に置かれていて、なんだか安心する。   「この家に戻って来ようかなぁ」  ポロリと本音が口からこぼれてしまった。 「なぁに、健治さんと上手く行ってないの?」  ちょっぴり好奇心の混ざった目を母に向けられ、言うんじゃなかったと後悔した。でも、言った言葉は取り消せない。 「うん、ちょっとね」  と、バツが悪くて、母から視線を逸らした。  私とは、反対に、母は女同士の秘密を共有して少し楽しそうに微笑む。 「まあ、両手の空いているうちなら、いいんじゃない。誰だって、失敗することぐらいあるんだから、まあ、あとで後悔しないようによく考えてね」 「そうだね。よく考えるよ」  イヤになるぐらい考えているのに、正解がわからずに困っている。  でも、昨晩、健治が家にいなかったのは事実だ。  スマホを見ても、外泊するというメッセージは入っていなかった。  
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