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「おばあちゃん……」  集中治療室から個室へ移った祖母は、口元には酸素吸入のマスクが嵌められ、病人そのものだった。痛み止めの薬が効いているせいで、まだ目覚めない。腕には点滴、ベッドの横にある心拍計が、ピッピッと音を立て、波形を刻んでいた。  ベッドに駆け寄り、祖母の手を握ると温かさが伝わって来る。 「ああ、良かった」  思わず言葉がこぼれるた。横で父と母もうなずいている。 「本当、一時はどうなるかと思ったわ」  そう言って、母は頬に手を当て安堵の表情を見せた。力の抜けた母の肩を父が支えている。  二人のその姿は、お互いがお互いを想い合っている姿だ。  夫婦として、長い間過ごした二人、良い事も悪い事あったはずだ。それを乗り越えたからこそ、今の姿がある。  私にとって、理想の夫婦の姿だった。  それでも、過去父の浮気に母は離婚も考えたあると言っていた。  時薬という言葉があるように、ゆっくりと時間が心に負った傷を治したのだろう。  私の傷も時間が癒してくれるのだろうか。  両親を見ていて、複雑な気持ちになった。  コンコンっと、ノック音が耳に届く。  とっさに「はい、どうぞ」と答えた。  ドアが開き、白衣を着た男性が看護師と一緒に部屋へ入って来て、母が男性に頭を下げる。 「あっ、先生。うちのおばあちゃんが、お世話になります」 「浅木久恵さんのご家族の方で、よろしいでしょうか? 私、内科医の野々宮成明と申します」
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