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「あっ……お世話になります」  野々宮果歩の父親が経営する緑原総合病院。  そこに果歩の夫が居るのは、なんら不思議ではない。それなのに、私は果歩の夫に会うなんて、考えていなかったから、びっくりしてしまった。  菅生健治の妻である私は、「夫がご迷惑をお掛けしまして……」と、頭を下げるべきなのかも知れない。  でも今、祖母が眠っている病室で、両親も居る。それに、私は入院患者の家族と言う立場だ。余計な事は言わずに、入院患者の家族として居ればいい。 「無事、手術を終えまして、病状も安定していることから、これからは内科の担当となります。今回、浅木久恵さんは、胆のうに石が出来て、それを取り除く手術を……」っと、野々宮成明から祖母の病状説明が始まった。    ちゃんとに聞いて、わからない事があれば、質問したりしなければいけないのに全然頭に入ってこない。  前に果歩と会った時の光景が、脳裏のよみがえる。  綺麗にネイルされている指先。豪華な指輪。婿養子の夫とは、もうすぐ別れると言ってた。  妻である果歩の自由な振る舞いを野々宮成明(この人)はどう思っているのだろう。    目の前に居る白衣の男性は、穏やかな口調で病状を説明している。母の的外れな質問にも、嫌な顔など見せずに丁寧に返答してくれている。  この緑原総合病院を病院を継ぐために一人娘の果歩と結婚し、婿養子に入ったという経歴から、ギラギラとした野心家の男性を想像していたのに、穏やかな様子は意外だった。 「あの……私、奥様の野々村果歩さんとは、同じ大学だったんです」  だから、私はこの野々宮成明氏に賭けてみようと思った。
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