24

1/3
前へ
/163ページ
次へ

24

 自宅マンションの玄関を開けると、廊下の先にあるリビングからテレビの音が聞こえてくる。  そして、そのリビングから健治が顔を見せた。  私は、何も気づいていないフリをして笑顔を向ける。 「ただいま、健治」 「おかえり、大変だったね。おばあちゃんの具合どう?」 「うん、昨晩は緊急手術になって大変だったけど、集中治療室(ICU)から一般の病室になって、安定している」 「そうか、とりあえず病状が安定しているなら良かったな」 「年も年だから心配だったんだ。でも無事でよかった。安心したらお腹が空いちゃった。あっ、もう2時過ぎなんだね」   そう言って、健治の様子をチラリと見ると、健治は待ってましたとばかりに冷蔵庫からお弁当を取り出した。 「美緒と食べようと思って買って来たんだ」 「ありがとう。うれしい」  そのお弁当は、さわらが入った鎌倉御膳弁当。今日の日付のシールが貼られている。  このあたりだと、みなとみらいのショッピングモールでしか買えないお弁当だ。   「わあ、おいしそう」 「喜んでもらえて良かったよ」  と、健治がホッと息を吐き、お弁当の帯を解き始める。  私は無邪気な表情で話しを続けた。 「このお店鎌倉のお店でしょう?わざわざ鎌倉まで行ったの?」  健治はパッと顔をあげた。その顔には焦りの色が見える。 「いや、栢浜(かやはま)駅でも買えるんだ」 「そうなんだ。このお店栢浜(かやはま)にも出店したんだね。今度私も買いたいからお店の場所教えて」  私は笑顔で健治に問いかけた。  うちのマンションがある場所から、午前中にみなとみらいへお弁当を買いに行くのは不自然過ぎる。  健治は、昨晩みなとみらいのホテルに泊まり、今日の午前中にお弁当を買って、帰ってきたのだろう。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

325人が本棚に入れています
本棚に追加