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 台所を覗くと母がお湯を沸かしていた。   「おばあちゃん、思ったより元気そうで良かった」 「やっと、元気になったのよ」    ダイニングテーブルの椅子を引き、腰を下ろすと目の前にお茶が出てくる。   「はぁ~。人に入れてもらったお茶は美味しい」    たいして高くもない番茶の美味しさを味わう。 「女は結婚すると損な事が多いわよね」  母が目尻にしわを寄せ、しみじみ言う。   「ホントに損ばかりだよね……。ねえ、お父さんって、浮気とかした?」    突然の直球に母は、お茶でむせ返りゲホゲホと苦しそうに咳き込む。そして、落ち着き、ひと呼吸すると口に手を添えナイショ話のように声をひそめる。 「実はね。何回かしてるのよ」  母の意外な言葉に、今度は私がお茶にむせ返り、ゲホゲホと咳き込んだ。 「お父さんが? モテそうもないのに意外」 「そうなのよ。美緒が小学校の時にね。そのときは離婚しようかと思ったわ」 「で、なんで離婚を留まったの?」 「そりゃ、美緒が片親になるのも可愛そうだし、母さん手に職もないからね、経済的にも無理だったのよ……」  思いもよらぬ母の話。てっきり、仲の良い夫婦なのかと思っていた。 「お母さん、苦労したんだ」 「そうね。あの時別れていたらどんな人生だったかと思う事はあるわよ」  そう言って、遠くを見た母の顔は、いつもの母ではなく、女の顔だった。 「あんた、そんなことを聞くなんて浮気でもされたの?」  なんとなくバツが悪く誤魔化すためにお茶を啜っていた。突然の指摘にゲホゲホッと咳き込んでしまう。そんな私に母は訳知り顔を向け口を開いた。 「子供がいないうちは、やり直ししやすいかもよ。良く考えなさい」  
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